Project Kaleido

PROJECT☆Kaleido_開発者インタビュー(前編)

開発者

精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 
商品企画総括部 先進技術部 部長
掃部雅幸(工学博士)


精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 
商品企画総括部 先進技術部
麻川はるか

インタビュアー:和久津 慎

——産業用ロボットの分野で活躍されている川崎重工さんですが、人型ロボットである「Kaleido」開発の根幹にはどういった想いがあるのでしょうか。

掃部  産業用ロボットの市場が膨らむ中で、長年、日本は高い国際競争力を維持してきました。しかし、中国をはじめとした各国が参入してさまざまなロボットを開発しており、世界における日本のシェアは下がってきています。今のままでは日本のトップランナーとしての地位も危なくなってしまう。そこで産業用ロボットの究極の姿である人型ロボットの開発に着手して、新しい血を入れようと考えました。
 産業用ロボットの開発においては、当然、信頼性やコストが重視されますから、なかなか冒険しにくいのですが、人型ロボットという未知の領域であれば、大胆な発想をもとにした挑戦も可能になります。そうした土壌で培われた新たな技術を産業用ロボットに投入して信頼性を高め、人型ロボットの開発にフィードバックするという、全体の底上げにつながるスパイラルを作り上げる。当時、ロボット事業部門長だった今の社長からそんなプロジェクトを立ち上げたいという話がありまして、私も参加することになりました。

——人型、つまり二足歩行ロボットは、どうしても「倒れない」ことを目指してしまいがちに思いますが、発想の転換で「倒れても壊れない」もしくは壊れてもすぐ直せるという方向性を目指したのはどうしてなのでしょう。

掃部 当時の事業部門長の強い信念で、プロジェクトが立ち上がった当初から「倒れても壊れないロボット」という大きなコンセプトがありました。
 東京大学さんと共同研究を立ち上げた当時、研究者の先生方から「研究室にあるロボットは転んだらすぐ壊れてしまう。在籍した学生は一年の多くの時間を修理に取られてしまって、研究や実験をする時間がない」という話を聞かされました。当時は産学協同プロジェクトとしてソフトウェアを大学側、ハードウェアを我々が担当していたのですが、ハードを改良するためには高度なソフトでロボットにさまざまな動きをさせることが必要なんです。そうすることでハードの弱点、もろい部分や足りない部分が見えてくるんですね。
 我々は産業用分野でアームやマニピュレーターの技術蓄積はありましたが、やはり下半身、特に歩かせることについてはほとんど蓄積がありませんでした。そのため、どんな実験をするにも、まずは二本の足で安定して立てなければならないのですが、その技術が我々にはなかったため、開発実験の中で壊れないロボットの重要性を身に染みて理解できました。企業として我々の得意分野であるモノ作りの力で、こういった研究に集中できない状況を改善しようじゃないかと、倒れても壊れないロボットを作ることで実験に専念してもらいたいという想いから生まれたコンセプトでもあるんです。我々はそれを実現できるロボットとはどんなものなのか、常に知恵を絞りながら開発を続けています。

——産業用ロボットでは珍しい内骨格式を採用していることも、そうしたコンセプトに関係があるのでしょうか。

掃部 通常、産業用ロボットは外側を塊にした外骨格式が多く、量産した際には安く作れて、コンパクトになります。一方で「Kaleido」はアクチュエータが壊れにくい内骨格式で作っています。内骨格式は外骨格式に比べて多くの機械要素で構成されるため、それぞれの部分が少しずつ変形して衝撃を受け止めることができ、目的としている頑丈さ、壊れにくさにつながるんです。ただ、部品点数が増えることで重量が増してしまう。当初、「Kaleido」は全身を内骨格式で進めていましたが、重量や頑強さ、動作条件など、さまざまなバランスを考えたうえで、現在は腕は外骨格式、脚と腰は内骨格式にしています。

——開発していく中でどうしても越えられない問題や、こだわった部分はどんなところでしょうか。

掃部 私が一番思い入れを持っているのが「歩く」ということです。2019年のロボット展の時点では「Kaleido」は時速1キロしか出せませんでした。そこから最低でもなんとか人間の普通の歩行と同じくらい——時速4キロを目指そうというのがチームの大きな目標になりました。時速1キロから2キロ、さらに3キロまでは大きな問題もなく到達できたんですが、時速4キロはなかなか越えられない、大きな壁となって立ちはだかったんです。歩き方そのものを大きく変えてみても、速く動かすためにアクチュエータのパワーをあげてみてもうまくいかない。そもそも人間が普通に歩いているときはそれほどパワーを使っていませんし、現在の「Kaleido」が持つパワーで十分再現可能なはずなんです。実は、人間は歩くときに膝をのばしているんですが、ヒューマノイドロボットは工学的に式が書けないために、それが再現できないんです。人間と同じように歩かせることができたなら、時速4キロに到達できるし、おそらくそれ以上の速度も出せるはずなんですが、どうしてもそれができないんですね。現状では無理やりに時速4キロを達成しましたが、これは一瞬の最高速度で安定的に歩けてはいないんですよ。下手をすれば人間の脳より数倍も賢いコンピュータを搭載しているのにもかかわらず、です。

麻川 私は映像やエンタテインメントへの興味から、人間らしい動きをどうやってロボットで再現するかに取り組んでいます。最初は腕の上げ下ろしひとつをとってもプログラムで再現していたのですが、とにかく手間がかかる上になかなかそれらしく動かすことが難しい。今回お披露目の「Kaleido Friends」のダンスデモでは、自社で開発したモーションキャプチャーシステムを使って、自分がとった動きをほとんどそのままロボットにトレースさせています。手作業に比べると簡単に動きが作れるようになって、より滑らかで人間らしい動きを作れるようになったのが面白いですね。もちろん、実際には人間の動きをそのまま再現すると、体の重さやバランスが人間とロボットでは違うので転んでしまいます。そこで動力学シミュレータで重心のバランスを取った動きに修正してから動かすようにしています。そういったハードとソフトの技術融合があって初めて、あのダンスができているんです。ダンスには関節の動かし方や大きな動作など、さまざまな要素が含まれていますから、ハードウエアとしてのロボットの性能を試す点においても、人間的な動きの学習にももってこいです。将来的には産業用ロボットへのフィードバックも十分期待できるのではないかと思います。

——「Kaleido」のようなロボットを作ろうと思ったきっかけや「Kaleido」に込めた想いの根幹には、どんなものがあるのでしょうか。

掃部 チームメンバーのひとりひとりにさまざまな想いがあると思います。なかには震災を体験したことで災害対応に強い想いを持っている人もいますし、離れて暮らす自分のおばあさんのそばにいてほしいと思って開発している人もいます。私にとっては——もしかしたら私に限らないかもしれませんが、やはり幼少のころにロボットアニメだったり特撮ヒーローだったりに触れていた世代からすると、ロボットはカッコイイもの、ヒーローでないといけないという想いがありますね。もちろん、産業用ロボットの開発においてはあまりカッコよさを追求しても仕方ないですが、ヒューマノイドロボットを担当している今、まさに私の想いや価値観を表現する場をいただけたとも思っています。「Kaleido」も常にカッコよくしようとしていますが、カッコイイ骨格の設計というのはとても大変で、そのあとには外装、筋肉のフォルムを表現する部分の設計も骨格部分と同じくらい期間をかけて設計しています。開発陣みんなで寄ってたかってカッコイイ形とはどういうものか議論しながら、曲線のひとつひとつを考えて今の形ができあがっているんです。