Project Kaleido

PROJECT☆Kaleido_開発者インタビュー(後編)

開発者

精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 
商品企画総括部 先進技術部 部長
掃部雅幸(工学博士)


精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 
商品企画総括部 先進技術部
麻川はるか

インタビュアー:和久津 慎

——「Kaleido」のこれからについてうかがいたいと思います。まず、「Kaleido」はいわゆるコンセプトモデルやショーモデルではなく、実際に製品化を目指したロボットという印象を強く受けました。これはなかなか挑戦的だと思います。

掃部:もちろん、「Kaleido」を製品化しようという想いはありますが、まだまだ人型ロボットを受け入れる社会的な素地、人型ロボットを使う側の体制が十分に整っていないとも思っています。
 もちろんロボットの側も、まだ十分な性能を備えてられていません。二足歩行というのはとにかく不安定ですから、従来の電化製品などのように買ってきてスイッチを入れれば思うように働いてくれるロボットというのは、技術的にもコスト的にもまだ実現が難しい。ですから「Kaleido」を製品化するために、まずは世の中に受け入れてもらえるように広報活動にも力を入れているところです。もっとヒューマノイドロボットをうまく使える方々、あるいは使えるツールが増えてくることで、製品化も可能になってくるのかと思っています。
 ヒューマノイドロボットの目標としているところは社会実装だと思います。自動車やスマートフォンのように社会に普及する、そこまでではないにしても産業用ロボットと同じように、ある限られた場所に何台かが動いている、そして人の役にたっている。そんな状況になれば、ヒューマノイドロボットとしてひとつの役目を果たした証拠なのではないかと思います。「Kaleido」も2015年から開発を始めてすでに7年、もう少しで10年を迎えますから、研究開発だけを続けるわけではなく、製品化という事業を見据えなくてはいけないのは至極当然の指令だと思います。

——「Kaleido Friends」や「RHP Bex」といった新しい「Kaleido」の形を作られたのもそうした流れということでしょうか。

掃部:二足歩行ロボットが実際に事業に結びつくまでには、まだまだ研究開発や技術の発展が必要です。それまで研究だけを続けていくのは非常に難しいので、どこかのタイミングで社会に落とし込める形を見つけないといけない。
 そのために、二足歩行よりも安定した形——車輪では平面移動だけになってしまいますから、もっと自由度の高い四足歩行ロボットを開発してみようかと始まったのが「RHP Bex」です。海外ではいくつか作られていますが、日本国内には四足歩行ロボット製品がなかったというのも理由のひとつですね。日本の産業用ロボットの技術は世界一ですし、日本人はロボットに目が肥えていますから、後発でも日本で一番になれば十分に世界にも挑んでいけるという想いがありました。
 「Kaleido Friends」に関しては、家庭での使用も含めた社会実装を考えたとき、「Kaleido」のような瞬発力や頑丈さよりも、人間の傍にいても危なくないロボットが必要とされますし、基本的に狭いところでの作業を求められますから、小型化が必要となりました。そうなると出力も必然的に下がってしまい、ロボットにすべての作業を任せることはなかなか難しい。でも、製造業の分野からは、ロボットの得意なところはロボットに任せて、苦手なところは人間や作業機械がフォローしていくという働き方が向いているというご意見もいただいていたんです。人間、機械、ロボットの協業を考えれば、ほかの機械にできることを無理に「Kaleido Friends」にやらせる必要はないんですよ。

——「Kaleido」はこれまで代を重ねるごとにひとつひとつ問題を解決してきたように見えます。次の8代目にむけて大きな目標としていることは何でしょうか。

掃部:ひとつはまだ歩行の部分がいきついていないということ。たかが歩行になぜそこまでこだわるのかと思われる方もいらっしゃるでしょうが、一言で言ってしまうと、人型であるためには二足歩行が必須なんです。最低限、人間と同じような歩行ができて初めてヒューマノイドロボットといえるのではないかと思っています。
 同時に、ある意味、研究のフェイズは社内的にももう終わりで、「Kaleido Friends」や「RHP Bex」のようにこれまでの研究の成果を使ってどのように事業展開していくかが大きなテーマのひとつです。さまざまな方々のお知恵を借りながら、どうやって事業にしていくかがもうひとつの課題だと考えています。

——「Kaleido」は産学共同で進められているプロジェクトですが、川崎重工さんの役割というのはどういったところになるのでしょうか。

掃部:大学によって得意分野、研究分野が違いますので、運動の制御の仕方、体の動かし方を考えている人もいれば、体の機構の研究、例えば手や脚の形をどうすると効率的かなど、それぞれ集中的に研究しているんです。それらの研究を統合して乗せるロボットを個々で作るのはなかなか大変なので、「Kaleido」をプラットフォームとして使ってもらって、検討と実験をしてもらうということができると考えています。
 例えば、ロボットを動かすために人工知能を使う場合でも、AIの成長には多くのデータが必要となります。さまざまな動作をさせて、センサーでそのデータを取ることで知能が発達していく。ヒューマノイドロボットである意味はまさにこの部分にあって、より複雑な動作ができること、より多くのセンサーがあることで、より多くのデータが取れる。その蓄積によって知能が発達すると考えられますから、ヒューマノイドロボットは賢くなっていく可能性が高いと考えられるのではないでしょうか。
 こだわっている歩行の面でも、ソフト面での学習は重要だと考えています。地球上で二足歩行を実現しているのは人間だけです。ヒューマノイドロボットに、どれだけ高性能なコンピュータを積んでどれだけ難しい理論を投入しても、まだ人間と同じ二足歩行には到達できていません。それだけ難しい二足歩行を、なぜ人間が簡単に実現しているかというと、ほかの動物にはない大きな脳を持っているからだということもわかってきています。事実、赤ちゃんのころは身体能力も低ければ知能も低くて、それが発達していくことで立ち上がって歩けるようになるんです。
 現在、我々はロボットの身体的能力=ハードウェアを一生懸命に開発して、工学的エッセンスを積み重ねて歩かせようとしていますが、このアプローチはそろそろ限界がきているのかなと私は考えています。ハードとソフトの両面が熟練していかないとロボットの発展は望めません。身体も進化させ、AIなどを搭載して知能も進化させる。そうすることで、もしかしたら人間と同じ、あるいはそれ以上に歩けるロボットができるのかなと思っていますね。

——「Kaleido」をオープンプラットフォームとして活躍させることで、そうした人型ロボットの進化の一翼を担えればということですね。

掃部:我々だけで人間と同じような機能を持ったロボットのすべての要素を開発することはできないんですよ。一方で、非常にとがった技術を持ってらっしゃる方もたくさんおられますが、その方々が単独でヒューマノイドロボットを作れるかというと、やはり作れない。そんな状況の中で、我々はしっかりとしたボディを作って、さまざまな機能やソフトウェア、それこそ人工知能を得意としている大学さんや研究者の方々、スタートアップ企業さんたちには、ぜひこの「Kaleido」を使って、自分たちの技術をさらに磨いていただきたいと考えています。
 おかげさまでさまざまな方々と協力したことで、今まで我々では手の出せなかった領域に対して新しい発見が出てきて、「ああ「Kaleido」はこんなこともできるんだ!」とわかってきています。例えば「Kaleido」は鉄棒で懸垂ができることを実演していますが、大阪大学さんとの共同研究では「Kaleido」の性能をパラメータ化してシミュレーションした結果、数日間の学習で簡単に逆上がりや蹴上がり、さらには大車輪もできるという結果も出ています。なかなか実験は怖くてできていないんですが(笑)、こういった形で我々の持っていない技術、強みを持っている方々と組むことで、どんどんKaleidoを人間に近づけて、賢くしていきたいなと考えています。ですから、「Kaleido」を使ってこんなことをしてみたい、我々ならこんなことができそうだというお申し出は、本当にウエルカムなんです。